無借金経営に未来はあるのか?

「無借金経営」とは聞こえはよいが、総合的に見てどうなのでしょうか。ここでは少し掘り下げて解説していきます。

銀行から見た無借金経営は?

通常は、誰がどう見ても借金がある会社と借金がない会社では、借金のないクリーンな会社のほうが優れるという感覚になります。企業価値を判断する経営指標というものがあり、長期の安全性を示す「自己資本比率」という最も重要な指標でも、借金がない会社の点数が高く算出され、「自己資本比率が高いほうがよい」と評価するのがセオリーです。

  • 算式:自己資本÷負債・純資産合計(%)
  • 会計や財務の専門知識を解説するサイトではありませんので、サラっと流して頂いて結構です。

よって、銀行から見れば、「借金がない会社に貸したい。」ということでしょう。なぜならば、当然リターンの期待や回収が容易だからです。

投資家から見た無借金経営は?

会社の将来性や商品の魅力などの無形の価値を無視すれば、融資サイドと同じく無借金経営が優越しますが、投資家は全員が100点を付ける会社に投資しても利益になりませんので、もう少し実態を見極め、無形の価値にも目を向けます。

 

先ほど「自己資本比率が高いほうがよい」と書きましたが、実はその逆数の「財務レバレッジ」というウラ指標があります。

  • 算式:負債・純資産合計÷自己資本(%)
  • 会計や財務の専門知識を解説するサイトではありませんので、サラっと流して頂いて結構です。

これは、単に自己資本比率が高いだけではダメで、「それだけ好調ならば、他人資本を投入してもっと儲けなさいよ!」というロジックです。他人資本とは借金のことをカッコ良く言っているだけです。

 

よって、投資家から見れば、「無借金経営もほどほどに。」という感じでしょうか。なぜならば、利益や配当を要求するのが投資家だからです。

ホントのところはどうなのか?

では、優れた経営者は借入金とどう向き合っているのか、ここでは少しだけその仕組みを解説します。なお、当然ながら、それぞれの環境や考え方などにより、大きく異なりますので、これに正解はありません。
ここからは、経営コンサルタント界の大御所で、「数字は人格」の著書である兜髄野の小山昇社長の明言など、随所に引用させて頂きます。

 

まず用語の説明ですが、現金や普通預金など、比較的自由に使えるお金を「キャッシュ」といいます。次からは、現金や普通預金のことをキャッシュと書きます。

短期的視点では?

短期的には、「イザというときに困らないだけのキャッシュを持つ」ことが重要です。無借金にこだわれば、社長の意思で自由に動かせるキャッシュの量が増えません。キャッシュがないと、資金繰りが苦しくなって倒産するリスクが高まります。利益が出ているのに、資金繰りに失敗して会社がつぶれた例はいくらでもあります。

 

キャッシュは会社の命綱です。会社が倒産するのは赤字だからと考えている人がいますが、それは違います。取引先への支払いや銀行への返済ができなくなったときに、入出金のタイミングのズレで倒産します。黒字は決して安全を意味しません。リーマンショックの2008年に限っては2分の1が黒字倒産でした。「支払いや返済ができるなら、事業がどれだけ赤字でも会社は存続できる」ということです。

長期的視点では?

長期的視点でも無借金はダメです。キャッシュが潤沢でないと、積極的に投資しづらくなり、未来の利益を生み出せなくなります。無借金は理想どころか、むしろ悪。経営者の怠慢です。借金はすることが正しい。守るだけでなく、攻めるためにもキャッシュは必要です。

 

キャッシュの役割は、会社の倒産を防ぐことだけではありません。会社を経営していれば、あえて損をしなければならない場面が必ずやってきます。キャッシュはそのときのために使います。つまり、「会社経営には、大切なもののために損をしなければならないときがくる。そのときに迷わず損の道を進めるように、普段は賢明に利益を出しなさい。」ということです。

 

また、未来へ投資するには、原資となるキャッシュが必要です。いくら利益が上がっていても、未来への投資をやめた会社は、そのうち窮地に陥ります。惜しまず投資をすれば、それ以上のリターンが返ってくる。キャッシュは会社を守る盾であると同じに、会社の成長を促す武器にもなる。まさにキャッシュが会社の命運を握っています。

 

たくさんキャッシュを持っていると、ケチらず投資できる。未来への投資は、額が大きいほど有利です。しかし、投資は大切ですが、キャッシュが薄くなるほどの多額な投資をすると、会社の倒産リスクが高まります。そのあたりは適度なバランス感覚が大切ですが、「理想は、大きく投資しても困らないように、全額銀行借入れするのが正しい。」ということです。

借金の本質とは?

借金を嫌う社長は、無借金経営こそよい経営であり、お金に困っていないのに金利を払って借りるのはバカだと考えています。すなわち、借金とは金利を払ってお金を借りることだと思っている。ところが、本当は違う。「借金は、金利を払って“時間”を買っている」のです。

 

少しスケールの大きい話ですが、40億円の借り入れを行い、3年間で黒字転換した会社があります。金利は年1億円です。3億円を銀行に払って、経営を立て直すために、3年間の時間を買った。これが借金の本質です。
後日談ですが、この会社は黒字転換した現在でも50億円の借入金を使わずに、キャッシュで持っている。これはいつでも返せますが、あえて金利を払って借り続けています。借金は金利で時間を買うことだと身をもって理解したからです。銀行との関係もWin×Winです。

 

私はもうひとつの持論があります。本当に必要なときに銀行は貸してくれません。当然です。借入れできるときに借りておいて、イザというときまで持っておく。金利で安心感を買っているということも付け加えたいです。

金利 = 時間 × 安心感

考えてもみて下さい。利益が出ても、半分は税金で国に収めます。ならば、その税金を金利の原資にして借入れし、キャッシュを増やせばいい。ご存知のとおり、金利(支払利息)は税法上の損金(経費)になるからです。簡単なケースで比較してみましょう。

 

利益100万円の無借金経営なら、法人税が30万円でキャッシュ70万円です。一方100万円借りて年利15%(R銀行)とすると、支払利息15万円控除で利益85万円、法人税が25万円、キャッシュは60万円+100万円で160万円となります。金利だけに着目すれば、15万円に節税5万円が効いて10万円、10÷15で66.67%(3分の2)となります。つまり、利息の3分の2で100万円の借入れができたことになります。

 

 

出費には「生きたお金」と「死んだお金」があり、「生きたお金」は積極的に使うべきです。支払利息は一見「死んだお金」ですが、今日からは「生きたお金」に見方が変わることを期待します。

 

新たな設備投資で機械のスペックが上がると、単純に生産性の向上で粗利(売上総利益)が増えます。一方で古い機械を「除去損」として経費で落せます。生産性向上と節税効果を見ると「金利がもったいない」という考えはいかにバカげているか、これでわかるでしょう。

まとめ

個人の立場で借金を避けたいと考えるのは正しい。しかし、会社は違います。個人の感覚で投資のことを考えていたら、成長が止まります。会社は、借金してキャッシュを持ち、それを未来に投資することが正しい。今日から借金についてマインドチェンジしてください。